そう思ってくれていい



「そっち、終わった?」
 後ろから聞こえてきた声に、顔を上げた。窓から差し込む夕陽が目に眩しい。
 振り返って見ると、少し離れた場所で棚の整理をしていたユニカがこちらを見ていた。
「ああ、大体は片付いた」
 一年という区切りで身の回りを整理しようと言い出したのは誰だったか。普段から整理整頓を心掛けてはいたつもりだったが、こうして改めて見てみると意外に物が増えている。
「まったく、誰がこんな物を持ってきたんだ……」
 手にしたのは、どこの物とも分からない鉄屑。使える物だけ持ち込むという当初の決まりはどうなったのか。
「あ、それ……」
「こんな物、一体何の役に立つと思って持ってきたんだろうな。理解不能だ」
「……それ、私が……」
「え?」
 珍しく口籠ったユニカを不思議に思い、振り返る。
「それ、私が持ってきたの……」
「………………」
 彼女の考えはときどき分からない。
 とにかく、今の発言で理解できたのは、この何の変哲もない鉄屑は彼女が持ち込んだ物で、僕はそうとは知らずに彼女を悪く言ってしまったということだ。
「……悪かった。とりあえず、これは取っておこう。何かに使えるかもしれないしな」
 取ってつけたように口にした言葉に、ユニカは眉を下げて笑った。
「あ、ねえ。そろそろ休憩にしない? 朝からずっと続けてたし、お腹も空いちゃった」
「そうだな」
 少しばかりの気まずさを振り払うように、僕たちは外の空気を吸いに部屋を後にした。





「ふう……」
「あ、ユーゴ君。疲れた?」
「いや、そこまでは……」
 いくら僕が軟弱な方だといっても、この程度で疲労を感じる程ではない。曲がりなりにも、あの塔を魔物と戦いながら登り切ったのだ。
 それでも、目の前で朗らかに笑う彼女には足元にも及ばないのだろうと思い、少し落ち込む。
「そういえば、さっきの鉄屑は何に使うんだ?」
「うーん、そうだなあ……包丁とか、武器とか!」
「武器って、もう十分にあるじゃないか」
 収集癖があるのか、ユニカは道端で使えそうな物があると決まって回収してくるのだ。それで助かったこともあるにはあるが、必要のない物も同じくらいだ。武器も自然と増えていく。
「武器なんて人数分以上あるんだ。もう必要ないだろう」
「ええ、必要だよ。私、子供が出来たら戦い方とか教えてあげたいの」
「んなッ!? こ、子供……!?」
「うん! 強い子に育ってほしいんだ」
 屈託なく笑うユニカにの発言に、悪気も深い意味もないのだろう。そうと分かっていながら動揺してしまう自分が恥ずかしい。
「ユーゴ君の子供だったら、やっぱり魔導士かな? 頭良さそうだよね」
「その分、軟弱そうだけどな」
「ユーゴ君ってば……。うーん、私の子供は魔法が全然使えない子になっちゃいそうだよね」
「………………」
「もう、何とか言ってよ〜!」
 ユニカは拗ねたように軽く僕の肩を叩いた。痛くはないが、どこかくすぐったい。
 努めて平静さを保ちながら、僕は徐に口を開く。
「僕と君の子供で、ちょうどいい具合になるんじゃないか?」
 ほんの仕返しのつもりで口にした言葉は、思った以上の反応を起こさせたらしい。横目でちらりと彼女の様子を探ると、大きな目を更に丸くして固まっているのが見えた。
 僅かに染まった頬は夕陽の所為か、それとも――。


     end



 2012/03/17/SAT
  だいぶ時期がずれたけど、年越しの大掃除とかをイメージして書いた覚えが……(目逸らし)