困らせてみる



「トリック・オア・トリートー!」
 耳慣れない単語が聞こえて振り返る。見ると、頭から白い布を被ったユニカが後ろ手に小さな籠を持って立っていた。
「何だって?」
「もう、ユーゴ君ってば知らないの? 今日は特別な日なんだよ!」
 ユニカが身振り手振りで力説しているのを見て、ユーゴは半ば呆れつつも思考を巡らせた。彼女が言うには、今日は子供がお菓子を貰い歩く行事だそうだ。
「それと、その格好と、何が関係あるんだ?」
「だからね、こうやってお化けの格好をしてお菓子をもらいに行くの。ほら、見て見て!ちゃんとお化けみたいにしてるでしょ?」
 そう言ってユニカはくるりと一回転してみせた。そういえば、以前読んだ文献にそんな記述があったような気もする。ユニカの格好はどう見てもシーツを被っているだけのようにしか見えないが、彼女の言い分としては立派なお化けのつもりらしい。細かく訊いても無駄だと思ったので、納得はしていないが黙っておいた。
「だから、はい! お菓子ちょうだい」
 満面の笑みを浮かべながら、ユニカが手を差し出す。今更、子供の行事というのも妙な話だが、目の前の彼女はいつにも増して楽しそうだ。
 だが、残念ながらユーゴはお菓子を持っていない。悪い気もしたが、正直にそれを答える。
「今は持っていない」
「えー! もう、ユーゴ君だめだなあ。ちゃんと用意しておかなきゃ」
 ちっちっ、と指を振りながら言うユニカは、どことなく得意気だった。自分が優位に立っているのが嬉しいのかもしれない。
 ユーゴは何となく面白くなくて、何でもない表情を取り繕って言った。
「そうだな。今は持ち合わせがないから……」
 手を軽く引っ張り、体を近くに寄せる。そして勢いそのままに、唇を目を丸くしている彼女のそれに押し付けた。ほんの数秒だけの口づけの後、僅かな緊張とともに呟く。
「これで我慢しといてくれ」
 ユニカの方を直視できず、不自然にならないよう努めて顔を逸らす。最後の瞬間に、彼女が真っ赤な顔をして立ち尽くしているのが見えた。
 ひっそりと微笑む彼の顔もまた、夕陽に照らされたかのように赤く染まっていた。


     end



 2012/10/31/WED
  ツイッターの診断で出た結果が可愛かったので出来た話。珍しく強気な(攻め気な?)ユーゴ君でした!書いてる方もちょっと恥ずかしかったんだぜ!(笑)