束の間の休息



「あれ……ユーゴ君、どうしてこんな所に……?」
 背後から聞こえてきた声に、ユーゴはようやく我に返った。ぼうっとしていたのか、声を掛けられるまで自分が何をしていたのか覚えていない。見つめる先にはすでに人影はなく、ただ延々と続く通路が見えるだけだった。
 振り返ると、そこにいたのは同じ捜索隊のメンバー。確かトバ家の娘で、ユニカ=トバといったはずだ。神官の家系でありながら魔法が使えないと聞いていたが、それにもかかわらず捜索隊に加わると知って驚いたのを覚えている。
「別に、大した用事じゃない。君と同じだ」
 妙なことを口走って勘繰られるのも面倒なので、当たり障りのない言葉を告げる。 ある意味、間違ってはいない返答だ。
 しかし、どうやら気を回す必要はなかったらしい。彼女はユーゴの予想の範疇を超えた疑問を投げかけてきた。
「でも立ち止まってたけど……怪我とかしちゃったの?」
「は? いや、気にしないでく……」
「あ、もしかして! ユーゴ君、お腹空いちゃったんじゃない?」
「え……?」
「そうだ! あのね、私 お母さんにお弁当を作ってもらってきたの。良かったら食べて!」
 まるで見当違いの言葉に声を挟む余地はなく、ユーゴは手近な場所に座らされ、彼女の母が作ったという弁当を持て成されてしまった。
「はい、どうぞ。好きなの食べていいからね」
 笑顔で差し出される弁当を前に、ユーゴはどうしたものかと困り果てる。
 本当は一刻も早く先を急ぎたいのだけど、相手には全く悪気がないようで、これでは強く反論することも出来ない。
 とりあえず目の前のリンゴを一つ手に取ると、ユーゴは暫し考え込んだ。
「……あ……お、おいしくなかった、かな……?」
「え?」
「お母さん料理上手だけど、ユーゴ君の家と味付けとか違ってたら無理しなくていいよ?」
 ユーゴが口にしたのはリンゴであって、別に味付けが必要なものでもなかったが、彼の沈黙をそう誤解したらしいユニカは申し訳なさそうに顔を曇らせる。
 その様子を目にして逆にユーゴの方が申し訳なくなり、思わず狼狽してしまった。
「あ……いや、そうじゃない。少し、考えていただけで……」
「そうなの?」
「……ああ」
 ユニカは大きな瞳を更に大きくすると、ユーゴの返事を聞いて安心したように微笑む。それを見てユーゴの心も少しだけ荷が下りたように感じる。
 ユーゴは横たえていた杖を手にすると、ゆっくりとその場から立ち上がった。
「……それじゃあ、そろそろ僕は先に行かせてもらう」
「うん、また後でね!」
 その声を背で受け、ユーゴはホッとしたような、呆れたような吐息を漏らす。
 まさか自分が『うさぎ型のリンゴ』を口にする日が来ようとは、夢にも思ってもいなかった。
 そういえば、とやや進んだ辺りでユーゴはふと立ち止まる。

(……勧められたからとはいえ、リンゴの礼をしていなかったな……)


     end



 2006/12/25/MON
  プレイング・マニュアルのアレが可愛くて、思わず…。